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東京地方裁判所 平成4年(ワ)14031号 判決 1996年3月11日

原告

桑原よ志

右訴訟代理人弁護士

小田原昌行

被告

日本生命保険相互会社

右代表者代表取締役

足立信之

右訴訟代理人弁護士

篠崎正巳

米里秀也

主文

一  原告の請求を棄却する。

二  訴訟費用は原告の負担とする。

事実及び理由

第一  請求

被告は、原告に対し、金八〇〇〇万円及びこれに対する平成四年八月二五日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。

第二  事案の概要

本件は、被告との間で変額保険契約を締結して、金融機関からの借入金をもってその保険料を支払い、その後、右保険契約を解約して払込保険料と解約払戻金等との差額相当額の損失を受けた原告が、被告の営業担当者の勧誘に当たっての違法な説明により右保険契約を締結したことによって右損失額及び右借入金利息額等合計八八七三万五〇四四円の損害を被ったとして、被告に対し、民法七一五条に基づき、右損害金の内金八〇〇〇万円及びこれに対する不法行為日の後である平成四年八月二五日から支払済みまで同法所定の年五分の割合による遅延損害金の支払を求めた事案である。

一  基礎となる事実

1  当事者及び関係者

(一)(1) 原告(明治四一年一月一〇日生)は、江戸川区内に多数の不動産を所有する資産家である。原告は、平成二年三月ころ脳梗塞で倒れて病院に入院し、その後も入退院を繰り返している。(甲六、乙二、三、一〇ないし一三、証人桑原勝次(以下「勝次」という。)(第一、二回))

(2) 勝次(昭和二二年五月二一日生)は、原告の長男で、家族と共に原告と同居している。同人は、以前には、自動車整備士、ガス配管工、自動車運転手などの職にあったが、平成二年八月一〇日にそれまで運転手として勤めていた運送会社を退職し、同年一一月一日から平成五年三月三一日まで、日動火災海上保険株式会社(以下「日動火災」という。)首都中央支店本所支社に研修嘱託社員として勤めていた。

勝次は、平成元年から、それまで原告の所有する不動産等の財産の管理を行っていた勝次の姉に代わり、原告の財産について、税理士に確定申告の依頼をするなどの管理を行うようになったが、右(1)のように、原告が高齢の上に脳梗塞で入院したこともあって、そのころから、原告が死亡した際に課される相続税の問題について悩んでいた。(甲三の1、五、三〇、三一、乙二、証人勝次(第一、二回))

(3) 桑原まり子(昭和二七年五月一四日生。以下「まり子」という。)は勝次の妻、桑原孝(昭和五〇年三月一一日生。以下「孝」という。)は勝次の子である。(甲三の2、乙三、証人勝次(第一回)、弁論の全趣旨)

(二)(1) 被告は、生命保険事業を行う相互会社である。(弁論の全趣旨)

(2) 高橋徹夫(以下「高橋」という。)は、被告の従業員であり、平成元年三月二五日から少なくとも平成三年三月ころまで、被告江戸川支社瑞江営業部の営業部長の地位にあったものである。(甲七の1、乙一)

(3) 中村まち子(以下「中村」という。)は、平成二年ころから少なくとも平成三年三月ころまで、高橋の部下として、被告江戸川支社の営業員を務めていたものである。(甲一、二、五、証人勝次(第一回)、同高橋(第一回))

2  変額保険契約締結の勧誘

高橋は、遅くとも平成二年の一一月中ころまでに、中村と共に原告のもとを訪問し、勝次に対して、変額保険を活用した相続税対策プランについての説明をし、被告との間で変額保険契約を締結するよう勧誘した。(争いのない事実)

3  当座貸越契約の締結及び根抵当権の設定

原告と株式会社千葉銀行(以下「千葉銀行」という。)は、平成三年一月三一日、①極度額・六億円、②利率・年8.5パーセント(ただし、長期プライムレートの変動幅と同幅で変動する。)、③利息支払日・毎月一五日、④弁済方法・随時弁済の約定で当座貸越契約を締結した。

また、原告と千葉銀行は、右同日、原告が所有する江戸川区内の不動産について、①極度額・七億五〇〇〇万円、②債権の範囲・銀行取引、手形債権、小切手債権、③債務者・原告の約定で根抵当権を設定することを合意し、同年二月一日、右合意に基づき、右不動産について、根抵当権設定登記がされた。(甲六、二〇、乙一〇ないし一三)

4  金員の借入れ

原告は、千葉銀行から、平成三年二月一日、右当座貸越契約に基づき、三億六八〇〇万円を借り入れた(以下「本件借入金」という。)。

なお、右借入金のうち約二億八八〇〇万円は後記6の各変額保険契約の保険料等に充てる目的で、残りの八〇〇〇万円は右借入金についての当面の間の利息の支払に充てる目的でそれぞれ借り入れられたものであり、原告は、右八〇〇〇万円を利息の支払時期まで定期預金とすることにして同銀行に預金した。(甲五、二五、二八、証人勝次(第二回))

5  保険料充当金の支払及び保険料への充当

原告は、被告に対し、平成三年二月四日、本件借入金を原資として、後記6の各変額保険契約の保険料充当金二億八二五八万一八三二円を支払った。

右保険料充当金は、その後、右各変額保険契約の成立により、次のとおり、その保険料に充当された。(争いのない事実)

(一) 後記6(一)の変額保険契約について

① 保険料総額

二億二三七七万六〇〇〇円

② 前納割引額(保険料全額を一括して前納したことによる割引額)

一一四一万二五七六円

③ 保険料への充当額(①―②)

二億一二三六万三四二四円

(二) 同(二)の変額保険契約について

① 保険料総額

七三九九万二〇〇〇円

② 前納割引額三七七万三五九二円

③ 保険料への充当額

七〇二一万八四〇八円

6  変額保険契約の締結

原告は、被告に対し、次の内容の変額保険契約の申込みをし、その後、平成三年三月一日を契約日(保険期間の始期)とする各変額保険契約が成立した(以下、(一)及び(二)の各変額保険契約をそれぞれ「本件保険契約一」及び「本件保険契約二」といい、これらを一括して「本件各保険契約」という。)。(甲三の1、2、争いのない事実)

(一)① 被保険者 勝次

② 保険の種類 利益配当付変額保険(有期型)

③ 払込期間及び保険期間 三年払込一〇年満期

④ 満期日 平成一三年二月二八日

⑤ 主契約基本保険金額 三億円

⑥ 保険金受取人 原告

⑦ 保険料 毎回七四五九万二〇〇〇円(年払)

⑧ 保険料払込時期 毎年三月の一日から末日まで

(二)① 被保険者 孝

② 保険の種類 右(一)②と同じ

③ 払込期間及び保険期間 右(一)③と同じ

④ 満期日 右(一)④と同じ

⑤ 主契約基本保険金額 一億円

⑥ 保険金受取人 右(一)⑥と同じ

⑦ 保険料 毎回二四六六万四〇〇〇円(年払)

⑧ 保険料払込時期 右(一)⑧と同じ

7  本件各保険契約の解約

原告は、被告に対し、平成四年八月二〇日、本件各保険契約の解約を申し入れ、同月二四日、被告から、次のとおり、解約払戻金等合計二億三八九七万五七六二円の支払を受けた。(争いのない事実)

(一) 本件保険契約一について

① 解約払戻金

一億五八八万三三〇一円

② 未経過保険料

七三五八万九〇八〇円

③ 支払額合計

一億七九四七万二三八一円

(二) 本件保険契約二について

① 解約払戻金三五一七万九九九円

② 未経過保険料

二四三三万二三八二円

③ 支払額合計

五九五〇万三三八一円

8  変額保険の仕組みとその募集に関する規制

(一)(1) 変額保険とは、昭和六一年七月に大蔵大臣の認可を受け、同年一〇月に発売が開始された生命保険の一種である。従来からある通常の生命保険(定額保険)では、保険金及び解約払戻金の金額はあらかじめ定められていて、払い込まれた保険料の運用により成果が出た場合の利益は配当金の形で契約者に還元されるのに対し、変額保険では、満期保険金や解約払戻金の金額について最低保証がなく、右保険料の運用実績がそれらの金額に直接に反映する仕組みになっている。(公知の事実)

(2) 保険会社は、払い込まれた保険料を基本保険金の支払財源等に充てるため一般勘定に繰り入れる部分と特別勘定として運用する部分とに分けた上、特別勘定に繰り入れられた資産については、他の保険にかかわる資産と区別し、株式、公社債等の有価証券を主体として、その時々の経済・金融状況等を勘案して運用する。定額保険では、安全性を重視した運用がされるのに対し、変額保険では、このように有価証券を主な対象とした運用がされるので、経済情勢や運用方法のいかんにより、保険契約者は高い収益を期待することができる反面、株価の低下や為替の変動による投資リスクも負担することになる。(争いのない事実)

(3) 保険会社は、保険契約者が保険契約を解約した場合、特別勘定資産の運用による積立金の金額を基に計算した解約払戻金を保険契約者に対して払い戻す。また、保険事故が発生したときは、あらかじめ定められた金額の基本保険金に右積立金の金額を基に計算した変動保険金を加えたものを保険金受取人に対して死亡保険金として支払う。さらに、保険期間が満了した場合には、満了時における運用実績に基づき計算された積立金を満期保険金として保険契約者に対して支払う。

このように、基本保険金の金額は特別勘定資産の運用実績にかかわらず常に一定額が保証されているが、解約払戻金、変動保険金及び満期保険金の金額は特別勘定資産の運用実績により変動し、最低額の保証がない。(争いのない事実、乙四)

(二)(1) 生命保険の募集については、保険募集の取締に関する法律(以下「募取法」という。)により一般的な規制がされている。同法では、募集文書図画に保険会社の将来における利益の配当又は剰余金の分配についての予想に関する事項を記載することが禁止されているほか(一五条二項)、保険契約者又は被保険者に対して、不実のことを告げ、若しくは保険契約の契約条項の一部につき比較した事項を告げ、又は保険契約の契約条項のうち重要な事項を告げない行為、並びに保険契約者又は被保険者に対して特別の利益の提供を約し、又は保険料の割引、割戻その他の特別の利益を提供する行為が禁止され(一六条一項一号、四号)、これらの違反行為に対しては、行政処分のほか、行為者に対する懲役刑をも含む罰則が定められている(二〇条一項、二二条一項三号、四号)。

(2) 変額保険についても、募取法上の右規制は当然に及ぶものであるが、変額保険が右(一)で述べたような投資リスクを伴う特殊な保険であり、同法の一般的規制では不十分であることから、変額保険の募集に際しては、大蔵省の通達(昭和六一年七月一〇日蔵銀第一九三三号「変額保険募集上の留意事項について」)により、①将来の運用成績についての断定的判断を提供する行為、②特別勘定の運用成績について、募集人が恣意に過去の特定期間を取り上げ、それによって将来を予測する行為、③保険金額(死亡保険金の場合には最低保証を上回る金額)あるいは解約払戻金額を保証する行為がいずれも禁止されている。(公知の事実)

(3) また、変額保険の募集担当者には、生命保険の募集に一般的に必要とされている知識に加えて、変額保険の特徴や仕組みなどについての特別な知識が必要であることから、社団法人生命保険協会(以下「生保協会」という。)による自主規制として資格制度が実施されており、変額保険販売資格を有する者のみが変額保険の募集に従事し得るものとされている。

そして、右(2)と同様の趣旨から、生保協会発行の「変額保険販売資格試験テキスト」には、募集の際の禁止事項として、①将来の運用成果について断定的判断を提供する行為、②特定会社との比較、特定期間を取り上げての比較、③保険金額、解約払戻金額の保証、④損失を被った場合に責任を負うことを約束する行為、⑤契約の乗換行為、⑥私製資料の使用が挙げられている。このうち、特に、⑥に関しては、生保協会の自主規制として「募集文書図画作成基準」が設けられており、募集の際、右基準に従って作成された上で同協会に登録されたもの以外の資料を用いることが禁止されている。

さらに、生保協会の自主的運営ルールとして、①特別勘定資産の評価方法、②保険金額の増減と基本保険金額、③解約払戻金及び満期保険金の金額に最低保証のないことをいずれも告知すべきこと、並びに右基準に従って運用実績が九パーセント、4.5パーセント、〇パーセントの各モデルに基づく試算例を作成すべきことが定められている。(弁論の全趣旨、当裁判所に職務上顕著な事実)

9  変額保険を活用した相続税対策

本件各保険契約のような保険料分割払込型の変額保険と金融機関からの融資を組み合わせることにより、以下のとおり、保険契約者が死亡した際に課される相続税の金額を減少させることが可能であり、さらに、特別勘定資産の運用実績によっては、右相続税の納税資金の確保も可能となる。(争いのない事実)

(一) 相続税法二六条一項は、相続で取得した生命保険契約(保険料の全額が一時に払い込まれたものを除く。)に関する権利の価額の評価について、当該契約に関する権利を取得した時までに払い込まれた保険料の合計金額(その時までに保険料の払込期日の到来していない部分を除く。)に一〇〇分の七〇の割合を乗じて算出した金額から、保険金額に一〇〇分の二の割合を乗じて算出した金額を控除した金額による旨定めている。

なお、右の「その時までに保険料の払込期日の到来していない部分」の保険料の合計額は、同法基本通達二六―一により、前納保険料としてその全額に対し課税されることとなってる。

(二) 近い将来に相続の開始が予想される者が、その推定相続人を被保険者とする保険料分割払込型の変額保険契約を締結し、金融機関からの借入金でその保険料を支払った場合、相続が開始すると、右(一)のとおり、右保険契約に関する権利は、払い込まれた保険料の約七割の価額で評価され、他方、右借入金及びその利息は、相続税法一三条一項一号により、その全額が財産の価額から控除されるので、払い込まれた保険料の金額の約三割について相続財産全体の評価額が圧縮されて相続税額が減少し、いわゆる節税効果が生じる。

ただし、変額保険の解約払戻金及び変動保険金の金額は、右8(一)のとおり、特別勘定資産の運用実績により変動し、場合によっては払込保険料の金額を下回る可能性がある上、借入金の利率も市場の動向により変動するので、全体としての支出額の減少(いわゆる実質的節税効果)の有無は不確定であり、全体としての支出額が増加することもあり得る。

(三) 変額保険の運用実績が好調で、解約払戻金の金額が右借入金の元利合計額を上回る場合には、相続の開始後に変額保険契約を解約した上、解約払戻金から右借入金を弁済し、その残余を相続税の納税資金に充てることも可能となる。

10  解約払戻金に賦課される所得税等について

(一) 所得税法三四条二項、三項は、一時所得の金額について、その年中の一時所得に係る総収入金額からその収入を得るために支出した金額を控除し、その残額から更に一時所得の特別控除額の五〇万円を控除した金額とする旨定めており、また、同法二二条二項二号は、課税標準の一つである総所得金額の算定について、他の所得(退職所得及び山林所得を除く。以下同じ。)の金額に一時所得及び譲渡所得の金額の合計額の二分の一に相当する金額を加えたものとする旨定めている。

そして、これを受け、所得税基本通達三四―一(4)は、生命保険契約等に基づく一時金に係る所得が一時所得に該当するものとし、また、同法施行令一八三条二項二号は、右一時金に係る一時所得の金額の計算について、当該生命保険契約等に係る保険料の総額は、その年分の一時所得の金額の計算上、支出した金額に算入する旨定めている。

(二) 生命保険契約の解約払戻金は、右一時金に当たるから、解約払戻金額から払込保険料の金額及び五〇万円を控除した残額が一時所得の金額とされ、この二分の一に相当する金額を他の所得に加えた金額が総所得金額となり、この金額に対して、最高税率五〇パーセントまでの所得税(同法(平成六年法律第一〇九号による改正前のもの)八九条一項)及び同一五パーセントまでの住民税(地方税法(平成六年法律第一一一号による改正前のもの)三五条一項、三一四条の三第一項)が課されることになる。

二  争点

1  高橋の勧誘行為及び説明の内容

(一) 原告の主張

(1) 高橋の勧誘行為

高橋は、勝次に対し、平成二年一一月中旬ころ、相続税対策に良い生命保険がある旨述べ、被告との間で変額保険契約を締結することを勧誘した。

勝次は、高橋から、右の最初の説明の後、同年一二月三日にも二回目の説明を受け、その後も数回にわたり説明を受けた。

(2) 高橋の説明の具体的内容

高橋は、変額保険について、①契約者から預った保険料を運用し、通常の生命保険より高い運用益を契約者に還元することを目的とした保険である、②現在の運用実績は約一三パーセントであるが、大蔵省が保険会社に対して契約者に明示することを許可した運用実績は九パーセントであり、このため、九パーセントの運用実績での運用を提示している、③運用実績が九パーセントを下回ることは絶対にあり得ないことであり、仮に一時的にこれを下回ったとしても、被告は日本で二番目に多くテナントビルを所有しているから、その収益で補充することができる、④銀行から保険料の資金を借り入れても、運用実績のほうが金利よりも高いので損をすることはないなどとして、九パーセントの運用実績を保証する旨述べた。

そして、変額保険を利用した相続税対策について、①相続税法上、変額保険の資産評価は払込保険料額の七〇パーセントに圧縮されるので、節税効果がある、②自己資金がなくとも、不動産を担保に銀行から融資を受けて変額保険に加入することができる、③借入金から発生する利息についても元金に組み入れれば、負債が増加するので節税効果も更に大きくなる旨述べ、右の九パーセントの運用実績を前提として、勝次、まり子及び孝を被保険者とする変額保険について、経過年数に対応した借入金の元利合計額、解約払戻金及び死亡保険金の金額を記載した「将来価格表」と題する書面(甲四の8ないし10。以下、右各書面をいずれも「将来価格表」という。)を作成し、これを勝次に交付した上、原告が勝次を被保険者として後記アの内容の変額保険契約を締結し、銀行からの借入金でその保険料を賄った場合を例に取り、変額保険の活用による節税効果を、要旨、以下のとおり、具体的金額を示して説明した。

ア 保険契約の主な内容

① 主契約基本保険金額 三億円

② 払込保険料 二億一二三七万円

③ 払込期間及び保険期間

三年払込一〇年満期

イ 銀行融資の主な内容

① 借入額 二億一二三七万円

② 利率

年8.5パーセント(複利)

ウ 保険契約締結後二年目に原告が死亡した場合

① 保険契約に基づく権利の相続財産としての評価額

2億1237万円×0.7−3億円×0.02=1億4265万9000円

② 借入金の元利合計額

2億1237万円×(1+0.085)×(1+0.085)=2億5001万円

③ 相続財産評価の圧縮額

二億五〇〇一万円−一億四二六五万九〇〇〇円≒一億八〇〇万円

④ 相続税の減少した額

1億800万円×0.7(相続税の最高税率)=7560万円

⑤ 解約払戻金額

二億二七九八万五〇〇〇円

⑥ 解約払戻金額が借入金元利合計額に満たないことによる損失額

二億五〇〇一万円−二億二七九八万五〇〇〇円=二二〇一万五〇〇〇円

⑦ 全体としての支出の減少額(いわゆる実質節税額)

七五六〇万円−二二〇一万五〇〇〇円=五三五九万五〇〇〇円

エ 保険契約締結後三年目に原告が死亡した場合

① 保険契約に基づく権利の相続財産としての評価額 一億四八〇〇万円

② 借入金の元利合計額

2億1237万円×(1+0.085)×(1+0.085)×(1+0.085)=2億7126万円

③ 相続財産評価の圧縮額

二億七一二六万円−一億四八〇〇万円=一億二三二六万円

④ 相続税の減少した額

1億2326万円×0.7=8628万2000円

⑤ 解約払戻金額二億四五六一万円

⑥ 解約払戻金額が借入金元利合計額に満たないことによる損失額

二億七一二六万円−二億四五六一万円=二五六五万円

⑦ 全体としての支出の減少額(いわゆる実質節税額)

八六二八万二〇〇〇円−二五六五万円=六〇六三万円

なお、高橋は、右の説明をする際、勝次に対し、右解約払戻金の金額はあくまでも計算上の数字であり、実際の運用実績は更に高いものである旨述べて、自ら作成した文書やメモのみを交付し、変額保険の特徴やその仕組みなどが記載された「ご契約のしおり 定款・約款」と題する小冊子(乙八。その詳細については後記第三の一1(三)のとおりである。以下、右小冊子を「契約のしおり」という。)や運用実績が九パーセント、4.5パーセント、〇パーセントの各モデルに基づく試算例が掲載された「設計書」と題する書面(様式については乙五参照。その詳細については後記第三の一2(二)のとおりである。以下、右書面を「設計書」という。)などの正式な書面を全く交付しなかった。

勝次は、その後に契約のしおりを受領したが、それは、本件各保険契約の締結後のことであり、保険証券と共に送付されてきたものである。

(二) 被告の主張

(1) 原告の主張(1)の事実は否認する。

高橋は、平成二年六月ころから、一五ないし一八回にわたり、原告のもとを訪れ、勝次に対し、変額保険について説明をした。勝次の積極的な要請により原告のもとを訪れて説明したことも度々ある。勝次は、極めて慎重であり、高橋に対して自ら資料を指定して持参させ、親戚をも集めて相談した上で本件各保険契約を締結したものである。

(2) 同(2)のうち、高橋が勝次に対して将来価格表を交付したことは認め、その余の事実は否認する。

高橋が九パーセントの運用実績を保証した事実はなく、解約払戻金及び変動保険金に最低金額の保証がないことは、十分に説明している。

また、一三パーセントの運用実績については、その当時の運用実績としてではなく、過去の平均の運用実績として説明したものである。

相続税対策については、相続税法二六条について一般的な説明を数字をもって行ったものであり、具体的な節税効果を説いて勧誘した事実はない。高橋の説明を参考に、勝次らが自ら節税効果について検討したものである。

契約のしおり及び設計書は、説明の際、勝次らに交付している。

2  高橋の説明の違法性

(一) 原告の主張

(1) 説明義務違反

変額保険は、前記一8(一)のとおり、解約払戻金等に最低金額の保証がなく、特別勘定資産の運用実績によってはこれらの金額が払込保険料の金額を下回り、元本割れが生じる可能性のあるリスクの高いものであるから、変額保険の募集人には、その勧誘に際し、契約のしおり及び運用実績が九パーセント、4.5パーセント、〇パーセントの各モデルに基づく試算例が掲載された設計書を交付した上、変額保険の仕組み、解約払戻金等について最低金額の保証がないこと、特別勘定資産の運用実績によってはこれらが払込保険料の金額を下回るおそれがあり、保険契約を解約しても高額の借入金債務が残る可能性があることを相手方に説明すべき義務がある。

さらに、同10(二)のとおり、解約払戻金の金額が払込保険料の金額を上回った場合には、その差額が一時所得となり、所得税及び住民税が課されるため、変額保険に加入することによりかえって納税額が増加することもあり得るのであるから、変額保険の募集人には、解約払戻金等に所得税及び住民税が課されることをも説明すべき義務がある。

しかるに、変額保険の募集人である高橋は、変額保険について相続税対策に最適の保険であるという程度の知識しか有しておらず右のようなリスクがあること及び解約払戻金等に所得税等が課されることを全く知らなかった勝次に対して、契約のしおり及び設計書を交付せず、また、右の諸点について何ら説明をしなかった。

(2) 不実の告知

平成二年秋ころ、被告において過去一年以前に契約した変額保険の特別勘定資産の運用実績は、マイナス四ないし一〇パーセントであったが、その当時から、被告を初めとする生命保険会社各社では、当日までの運用実績が算出されるコンピューターシステムが完備しており、従業員であれば誰でもその当日の運用実績を容易に知ることが可能となっていた。

しかるに、高橋は、平成二年一一月中旬及び同年一二月三日ころ、勝次に対し、現在の運用実績が一三パーセントであり、最低でも九パーセントの運用実績は確実である旨の不実の告知をした。

また、右1(一)(2)ウ⑥及び同エ⑥のとおり、運用実績が九パーセントの場合、解約払戻金額が借入金元利合計額を下回るため、相続税の納税資金の確保が不可能であるばかりでなく、借入金の元利の弁済資金が別途必要になるにもかかわらず、高橋は、変額保険に加入すれば、節税ができる上に相続税の納税資金も確保することが可能である旨の不実の告知をした。

さらに、同(2)ウの場合、三回目の保険料払込期日がまだ到来していないのであるから、前記一9(一)のとおり、三年目の分の保険料は前納保険料としてその全額に対し課税されることとなり、払込保険料全額について相続財産としての評価が約七割に圧縮されることはないにもかかわらず、高橋は、本件各保険契約では、保険料全額を一度に前納すれば、常に保険料全額について相続財産としての評価が約七割に圧縮されるので、相続税対策として最適である旨の不実の告知をした。

(3) 高橋の右(1)及び(2)の各行為は、説明義務違反又は不実の告知に当たるものとして違法であり、それについて、同人には故意又は過失がある。

(三) 被告の主張

(1) 原告の主張(1)の説明義務があることは争う。

仮に、変額保険のリスクについての説明義務が認められるとしても、高橋は、勝次に対し、変額保険について説明したパンフレット(乙四。その内容については後記第三の一2(一)のとおりである。以下、右パンフレットを「本件パンフレット」という。)、設計書及び契約のしおりを交付した上、変額保険の仕組み、解約払戻金等について最低金額の保証がないこと、特別勘定資産の運用実績によってはこれらが払込保険料の金額を下回るおそれがあることなどを十分に説明しており、勝次も、このことは熟知していたものである。

勝次は、本件各保険契約の申込みの当時、日動火災の営業職員で、保険について詳しい知識があり、高橋が提供する資料だけでは足りず、ほかにも同人に対して資料を要求し、検討をしている。

(2) 同(2)の事実は否認する。

平成二年秋ころに知ることができた運用実績は、8.7パーセントであり、また、被告には、原告主張のようなコンピューターシステムは完備していない。

さらに、高橋が原告主張のような説明をしたこともない。

(3) 同(3)は争う。

3  損害

(一) 原告の主張

(1) 高橋の前記説明により、銀行からの借入金を原資として変額保険に加入すれば、安全かつ確実な相続税対策になると誤信した勝次が、原告をして、原告所有の不動産に根抵当権を設定させ、銀行から融資を受けさせた上、被告と本件各保険契約を締結させたため、原告は、次のとおり合計八八七三万五〇四四円の損害を受けた。

(2)ア 払込保険料合計額と解約払戻金等合計額の差額

四三六〇万六〇七〇円

イ 本件借入金のうち保険料の支払に充てられた二億八二五八万一八三二円についての平成三年二月一日(借入日)から平成四年八月二四日(解約払戻金等の受領日)までの利息の合計額(詳細は別紙のとおりである。)

三四〇二万八八二四円

なお、原告は、本件借入金のうち保険料に充てられなかった部分を原資として右借入金の利息を支払っているため、右利息は複利で計算されるべきである。

ウ 根抵当権設定費用

① 登録免許税三〇四万八六五〇円

② 司法書士報酬及び保証書発行手数料 二五万一五〇〇円

エ 弁護士費用 七八〇万円

(二) 被告の主張

(1) 原告の主張(1)は争う。

(2) 同(2)は不知。

第三  争点に対する判断

一  争点1(高橋の勧誘行為及び説明の内容)について

1  本件各保険契約の締結に至る経緯及び高橋の説明内容について

甲四の1ないし10、五、八、九の1、2、二二、乙一ないし五、八、一六の1ないし3及び証人勝次、同高橋の各証言(第一、二回)によれば、以下の事実が認められる。

(一) 高橋は、平成二年六月に開催された被告主催のゴルフコンペにおいて面識を持った福田政夫(以下「福田」という。)から、相続税の問題に悩んでいる知人を紹介するので相続税対策に役立つ生命保険について説明に来て欲しい旨依頼され、同年一一月中ころ、福田の経営する事務所に中村と共に赴いた。

高橋は、右事務所内において、福田から紹介を受けた勝次に対し、本件パンフレットを中村から交付させた上、右パンフレットに基づき、変額保険について、有価証券を主体に払込保険料を運用するため、払込保険料の運用実績により解約払戻金等の金額は上下し、一定の金額が保証されるものではないが、従来の生命保険よりも高い運用益を上げることができるものである旨簡単に説明した上、さらに、銀行からの借入金で保険料全額と右借入金の利息を賄えるため手元に資金がなくとも加入が可能であること、その場合、変額保険については払込保険料の約七割の金額のみが相続財産として評価され、他方、借入金及びその利息についてはその全額が相続財産から控除されるから、相続財産の圧縮効果があり、相続税対策として有効であることなどを説明し、右説明を聞いて変額保険に興味を示した勝次から、保険料額の算出に必要な原告、勝次、まり子及び孝の生年月日を聞き出した。

(二) その後、高橋は、同月中ころから翌一二月にかけて、数回にわたり原告方を訪れ、勝次に対し、変額保険について更に説明をし、被告との変額保険契約の締結を勧誘した。右勧誘の際の状況及び説明の内容は、要旨、次のとおりである。

(1) 高橋は、勝次から聞いた右生年月日を基に勝次、まり子及び孝をそれぞれ被保険者とする変額保険の設計書をコンピューターにより作成し、これに基づき、右三名を被保険者とする変額保険について、特別勘定資産の運用実績が九パーセント、借入金の利率が年8.5パーセントの場合を例に採り、契約後三年目から(借入金の元利合計額については一年目から)一〇年目までの各年ごとの解約払戻金及び死亡保険金の金額並びに右借入金の元利合計額をそれぞれ対照した将来価格表(甲四の8ないし10)を部下に作成させた。

そして、高橋は、これらの書面を勝次に交付し、それに基づいて、右解約払戻金等と借入金の元利合計額が次第に増加していく様子につき数字を挙げて具体的に説明した上、変額保険の節税効果について、前記第二の二1(一)(2)アないしエのとおり、契約締結後二年目に原告が死亡した場合には五三五九万五〇〇〇円が、契約締結後三年目に原告が死亡した場合には六〇六三万円がそれぞれ実質的な節税額になる旨をメモ書き(甲四の1、2、八)にして示しながら説明した。

(2) その後、高橋は、勝次から特別勘定資産の運用実績につき九パーセントを提示する根拠の説明を求められたことから、勝次に対し、「9%運用を提示させて頂く理由について」と題する書面(甲四の3、4。その詳細については後記2(三)のとおりである。以下、右書面を「本件説明書」という。)を交付した上、これに基づき、右運用実績は、過去の最高が四五パーセント、平均が一三パーセントに及んでおり、現在でも一二ないし一三パーセントである旨、大蔵省から提示を許可された運用実績が九パーセントであるため、九パーセントでの運用を提示している旨、及び運用実績は短期的には上下するが、被告は三菱地所に次いで日本では二番目に多くテナントビルを保有している会社であるから、その収益により長期的にみれば九パーセントを下回ることはない旨などを告げ、その上で、運用実績が相当に高くなれば、解約払戻金が借入金の元利合計額を上回る可能性もあり、その場合には、解約払戻金により相続税の納税資金の一部も賄えるから、相続財産の圧縮効果以外にも相続税対策としてメリットがある旨を説明した。

また、高橋は、勝次から右運用実績が八又は七パーセントの場合における解約払戻金及び借入金の元利合計額についての質問を受けたことから、勝次、まり子及び孝について契約後一年目から五年目までの各年ごとの右の場合の解約払戻金の金額及び右借入金の元利合計額を記載した書面(甲四の5ないし7)を部下に作成させて、これらの書面を勝次に交付し、右各金額について説明をした。

(三) なお、被告は、定款、保険約款、変額保険の特徴や仕組み、契約に関する重要事項等が記載されている契約のしおりを作成しており、右しおりでは、特別勘定資産を株式、公社債、貸付金等を運用対象として投資すること、右資産の運用実績に応じて保険金額が変動すること、満期保険金については最低額の保証がなく、運用実績によっては満期保険金額が基本保険金額を下回る可能性があることなどが説明されているが、高橋は、平成二年一二月ころ、中村に指示して、契約のしおりを勝次に交付させた。

(四) 勝次は、高橋の右(一)及び(二)のような説明から、変額保険について、相続財産の評価額を圧縮する効果がある上、運用実績次第では解約払戻金により相続税の納税資金の一部も賄えるため、相続税対策として非常に有効であると考え、原告をして、被告との間で、勝次、まり子及び孝を被保険者とする変額保険契約を締結させることを決めた。そして、勝次は、同月一〇日に高橋から紹介された千葉銀行の担当者との間で融資を受けるための手続をした上、同月一三日に右三名が被告の嘱託医による健康審査を受けたが、その結果、まり子を被保険者とする変額保険については契約を締結することができないことになったため、かねて渡されていた変額保険契約申込書のうち勝次及び孝を被保険者とするもの(乙二、三)について、原告に自署をさせて押印し、同月一四日に原告宅を訪れた被告の営業員の松田美津子にこれらを交付した。

その後、保険料充当金の支払など契約の成立に必要な諸手続が終了した後、前記第二の一6のとおり、本件各保険契約が成立した。

2  高橋が勝次に交付した書面について

甲四の3、4、乙四ないし七及び証人高橋の証言によれば、次の事実が認められる。

(一) 本件パンフレットについて

本件パンフレットでは、まず、変額保険の特徴について、①保険料は一定で、保険金額が特別勘定資産の運用実績に基づいて増減する生命保険であること、②特別勘定とは、変額保険に係る資産の管理・運用を行うもので、他の保険種類に係る資産とは区分し、独立して管理・運用を行うものであること、③特別勘定資産は上場株式、公社債等の有価証券を主体とした運用がされるので、契約者は、経済情勢や運用いかんにより高い収益を期待することができるが、一方で株価の低下や為替の変動による投資リスクも負うものであることなど、従来からある定額保険と異なり、変額保険がいわゆるハイリスク・ハイリターンの商品であることが説明されている。

次に、変額保険を終身型と本件各保険契約のような有期型に分けて、その仕組みを簡潔に解説しており、そのうち、有期型のものに関しては、①基本保険金とは契約時に決める保険金のことで、死亡のときにこの保険金額は最低保証されるものであること、②変動保険金とは運用実績により増減する前月末の積立金を基に計算される保険金であること、③死亡保険金額は基本保険金額と死亡日の属する月の変動保険金額の合計額であること、及び変動保険金額が負の場合でも最低保証により基本保険金額を下回ることはないこと、④満期保険金は保険期間満了時における運用実績に基づいて計算された積立金であり、最低保証がなく、基本保険金額を下回ることがあり得ることが説明されている。

続いて、基本保険金額を一〇〇〇万円とする変額保険を例に採り、時間の経過に従って保険金額が波のように上下に変動する様子が二例の図表により表現され、そのうち(例1)では最終的に満期保険金が基本保険金を上回るところが、また、(例2)では最終的に満期保険金が基本保険金を下回るところが表されている。

そして、その次には、死亡保険金については基本保険金額が最低金額として保証されていること、満期保険金についてはそのような保証はないことが重ねて説明された上、さらに、「特別勘定の運用実績例表」として、具体的運用例を挙げて、運用実績が九パーセント、4.5パーセント、〇パーセントの各場合について、それぞれ、三年、五年及び一〇年が経過した場合の死亡保険金と解約払戻金の各金額が記載された表が掲載されている。

(二) 設計書について

設計書の表面には、左側に、上から順に、被保険者の氏名、生年月日、契約時の年齢、払込期間及び満期、基本保険金額、付加する特約の内容及び右特約に係る保険金額、保険料の金額が記載される欄がある。

また、右側には、「変額保険の仕組」として、本件パンフレットに記載された二例の図表と同様な図表が記載され、その下には、「特別勘定の資産の運用実績例表」「変額保険は保険金額・解約払戻金額が変動する仕組の保険ですが、保険の内容、特質をご理解いただくために下記例表を掲載しています。この例表の数値は、当商品のパンフレットにもご説明のとおり、運用実績および配当実績により変動(上下)しますので、将来のお支払額を約束するものではありません。なお、この数値には付加している特約の解約払戻金を加算して計算しています。」との説明文と共に、本件パンフレットに掲載された「特別勘定の運用実績例表」と同様の表(ただし、経過年数については、三年、五年、七年、九年及び一〇年の場合が表示されている。)が掲載されている。

さらに、裏面には、基本保険金、変動保険金、死亡保険金及び満期保険金についての本件パンフレットと同様の説明並びに「〔変額保険にかかわる資産の管理・運用について〕」として特別勘定及び特別勘定の運用対象についての説明が記載されている。

(三) 本件説明書について

まず、冒頭では、変額保険について、「生命保険の変額保険は銀行で言う処のMMCに相当するものでございます。生保各社の競争の中でお預りする保険料を、その運用実績によって一般の保険と違う契約者様への利益還元をしてゆこうとの考えから発売されたものでございます。従いまして、一般の保険の運用実績(現在6%)よりも多く還元することを目的としております。」と説明し、変額保険が、通常の生命保険よりも高い運用益を上げて、これを契約者に還元することを目的として開発されたものである旨述べている。

続いて、「以下9%をご提示させて頂いた理由をご説明申し上げます。」として、以下、1ないし3において、その理由を述べている。

1としては、九パーセントの運用実績を提示する根拠として、「大蔵省当局が過去の保険会社の資産運用実績を検討した結果、長い期間(3〜5年以上)の中で契約者に必要以上の期待を持たせる運用利回りではないことを考え、監督官庁として責任の取れる範囲として保険会社がご契約者に明示してよろしいと許可を与えた運用利回りであります。」として、右提示について監督官庁である大蔵省から許可を得ている趣旨の記載がる。

2としては、被告の変額保険の過去の運用実績について、「ちなみに日生の運用実績は、過去最高45%の運用を行っており最低は6.5%でありました。発売されて5年になりますが平均は13%程度の運用となっております。」としている。

3としては、今後の運用実績の予想について、金利の低下傾向が株価にも影響を与えるものと判断され、したがって、株価の底と考えられる現在、将来に向かってタイミングの良い高利回りが得られるものと考えられるとし、さらに、保険料の運用方法については、株式三〇パーセント、債券五〇パーセント、不動産・貸付等二〇パーセントの各割合で運用しているので、安全かつ高利回りの運用を期待することができる旨の記載がある。

3  証拠判断

(一) 右1の認定に対し、証人高橋は、①勝次に初めて会ったのは平成二年六月ころであり、その二、三日後には、設計書及び将来価格表を勝次に示して、将来の解約払戻金等の金額及び借入金の元利合計額について説明した(第一、二回)、②三年分の保険料を一括して前納した場合、その全額について相続財産の評価額が圧縮されるのは三年目以降である旨も説明した(第一回)旨証言し、乙一にも同旨の陳述記載がある。

しかしながら、証人高橋の右証言及び陳述記載は、以下の理由から信用することができない。

(1) 右の①の証言及び陳述記載について

乙八及び弁論の全趣旨によれば、保険契約約款上、保険料の算定の基準となる被保険者の年齢は、契約日におけるいわゆる「契約年齢」(満年齢で計算し、一年未満の端数については、六か月以下のものは切り捨て、六か月を超えるものは切り上げる。)によるものとされていることが認められるが、前記第二の一1の(2)及び(3)で認定した勝次、まり子及び孝の生年月日から計算すれば、平成二年六月当時の同人らの「契約年齢」は、それぞれ四三歳、三八歳及び一五歳であるから、その当時に作成された設計書及び将来価格表であれば、同人らの「契約年齢」は右のとおりに記載されているのが自然であろう。

ところが、甲四の8ないし10の将来価格表には、右三名の「契約年齢」について、それぞれ、「44才」、「39才」及び「16才」と記載されており、右生年月日から計算すれば、同人らの「契約年齢」がいずれも右の各年齢に達するのは同年一一月二一日であるところ、同年六月の時点で一一月二一日以降の「契約年齢」を表示した設計書及び将来価格表を作成しなければならない合理的理由は証拠上何ら認められないから、右の点に照らすと、証人高橋の右①の証言及び陳述記載は、にわかに信用することができないというべきである。

(2) 右②の証言及び陳述記載について

証人高橋の証言及び陳述記載の内容は、要するに、本件各保険契約の締結後に、三年分の保険料を一括して前納した場合には二年目においても右保険料の全額について相続財産の評価額が圧縮される旨の誤った記載のあるメモ書き(甲八)を交付し、これに基づき誤った説明をしたことがあるが、右契約締結前の説明の際には、右の場合に右保険料の全額について相続財産の評価額が圧縮されるのは三年目以降である旨説明しており、右説明には何ら誤りはないというものである。

しかしながら、相続税法等についての正しい理解に基づき、いったんは正確な説明をした者が、その後、同じ事項について、今度は誤った説明をしたという右証言及び陳述記載は、そもそも極めて不自然であり、容易に首肯し難いものである。

また、前記第二の一4によれば、原告は、銀行から三億六八〇〇万円を借り入れ、そのうち借入金の利息に充てる予定の八〇〇〇万円については、定期預金として銀行に預金していたというのであるから、本件各保険契約の二年目及び三年目の保険料も借入金の利息と同じく定期預金として右銀行に預金し、本来の払込時期に右各保険料を支払うことに何ら支障がなかったことは明らかである。そして、保険料の前納割引額の実質的利回りは年六パーセントであり(乙一、証人勝次(第二回))、これは、右借入れ当時の借入金の金利を2.5パーセントも下回るから、もし、仮に、勝次が、高橋の説明により、三年分の保険料を一括して前納した場合でもその全額について相続財産の評価額が圧縮されるのは三年目以降であることを理解していたならば、三年分の保険料をあえて一括して前払したりはしないはずである。

右の諸点に照らすと、証人高橋の右②の証言及び陳述記載は、にわかに信用することができないといわざるを得ない。

(二) 一方、証人勝次は、勧誘の際に高橋から、①本件パンフレット、設計書、契約のしおりなどの正式の資料を一切受領していない、②解約払戻金及び満期保険金の金額に最低保証がないことについての説明も受けていない旨証言し(第一、二回)、甲五にも同旨の陳述記載がある。

しかしながら、証人勝次の右証言及び陳述記載も、以下の理由から信用することができない。

(1) 右①の証言及び陳述記載について

一般に、生命保険の勧誘の際には、募集人が、当該生命保険の内容、特徴等が記載されたパンフレットや設計書等の正式に作成された多数の資料を使用して右内容や特徴を説明するのが通常であり、特に、変額保険の場合は、従来からの定額型の生命保険とは基本的な仕組みを全く異にする特徴を有するものであり、その当時、初めて発売されてから比較的日も浅く、一般に余りなじみのあるものではなかった(この点は、弁論の全趣旨から明らかである。)ことからすれば、むしろ、募集人は、右のような資料を積極的に活用して勧誘活動をするのが常といえよう。そして、証人勝次も、以前に養老保険に加入した際には、パンフレットや設計書の交付を受けた旨証言しているほか、前記第二の一1(一)(2)のとおり、同証人自身、当時既に日動火災の研修嘱託社員になっており、保険の種類こそ異なれ、一般に保険の勧誘及び説明にはパンフレット等の正式の資料が有用であり、したがって、また、当該保険の仕組みや内容を理解するにも、右資料が有用であることを十分に認識していたはずである。

ところが、証人勝次は、本件各保険契約の勧誘の際に示されたものは、甲四の1ないし10及び八の書面のみであるとし、右のようなパンフレットや設計書等の正式の資料は一切交付されなかった旨証言するが、甲四の1ないし10及び八の書面は、変額保険による相続税額の圧縮額や運用利回り、あるいは保険料借入金の元利と解約払戻金の関係等、変額保険の仕組みや特徴を理解した上で問題となる事柄が記載されているものであって、右書面からでは、変額保険の仕組みや特徴を理解するのは著しく困難なはずである。右証言のとおりであるとすると、証人勝次は、高橋の口頭の説明のみで変額保険の仕組みや特徴を理解したか、又は、その点を理解しないまま、右書面の内容を理解したということになるが、前者の場合については、高橋があえて資料を用いず、口頭のみで説明しなければならない必要性は通常考え難く、また、後者の場合についても、変額保険の仕組みや特徴を理解しないまま右書面の内容のみを理解するなどということも通常考え難いから、右証言は、まず、この点からみて、不自然の感が否めない。

また、証人勝次は、パンフレットや設計書等の資料が一切示されなかったことについても、別段疑問を抱いたこともなければ、正式の資料の提示を求めたこともない旨証言するが、本件各保険契約が保険料だけでも合計額で三億円近い高額のものであることを考慮に入れると、経験則上、右契約の内容を正確に知るためにより慎重な態度を取り、その内容について十分に説明を受けようとするのが通常というべきであり、特に、同証人の場合、前述のとおり日動火災の研修嘱託社員としてパンフレット等の資料の有用性について相応の知識を有していたものと考えられることからすると、甲四の1ないし10及び八以上の書面の提示を求めなかったとする右証言は、この点からみても不自然であり、にわかに首肯し難いものといわざるを得ない。

さらに、仮に、本件の場合にパンフレットや設計書等の資料が全く示されなかったとすれば、高橋及び中村は、何らかの特段の意図の下に、それらの書面をあえて示さなかったものと考えざるを得ないが、そのような特段の意図の存在をうかがわせる事情は証拠上何ら認められないばかりか、甲四の8ないし10には「上記の解約金・保険金額については、パンフレットにもご説明の通り、今後変動(上・下)することがあります。」との記載があり、もし高橋らに右のような特段の意図があったならば、本件パンフレットの存在について言及した右書面を勝次に交付することはないであろう。

右の諸点に照らせば、勧誘の際に高橋から本件パンフレット、設計書、契約のしおりなどの正式の資料を一切受領していないとする証人勝次の右証言及び陳述記載は、にわかに信用することができない。

なお、設計書(乙七)中の「特別勘定の資産の運用実績例表」における4.5パーセント運用の場合の三年及び五年経過時の解約払戻金の金額は、甲四の7の書面中の八パーセント運用の場合の三年目及び五年目の右金額と同一であるが、乙七の金額は、設計書作成当時の各金額を事後に復元したもので(この点は、弁論の全趣旨から明らかである。)、保険証券(甲三の2)の「解約払戻金額」欄の経過年数三年、五年及び七年の払戻金額が右設計書(乙七)の運用実績例表の金額と異なることからも分かるように、必ずしも正確なものではないと考えられるから、乙七に記載された金額と甲四の7に記載された金額に食い違いがあったとしても、高橋が勝次に設計書を交付していないことの根拠にはなり得ないというべきである。

(2) 右②の証言及び陳述記載について

右2のとおり、本件パンフレットや設計書等には、解約払戻金及び満期保険金の金額に最低保証がないことを含めて変額保険についての詳細な説明が記載されており、高橋がこれらに基づいて勝次に変額保険について説明しているものと認められることからすると、解約払戻金及び満期保険金の金額に最低保証がない旨の説明を受けていないとする証人勝次の右証言及び陳述記載も、また、にわかに信用することができないというべきである。

二  争点2(高橋の説明の違法性)について

1  説明義務違反について

(一) 解約払戻金等の金額に最低保証がないことなどについて

前記第二の一8(一)のとおり、変額保険は株価の低下等による投資リスクを契約者が負担するという従来の定額保険とは全く異なる特徴を有する保険である上、本件各保険契約の締結当時は、変額保険の販売が開始されてから数年しか経過しておらず、変額保険が一般にはそれほど浸透していなかったものと推察されることを考慮すると、変額保険の募集人には、勧誘の際、相手方に対して、変額保険契約を締結した結果として不測の損害を被ることがないように、変額保険の特徴について十分に説明すべき信義則上の法的義務があるものと解すべきである。

右説明義務の具体的な内容は、相手方の職業、経歴、年齢、財産の多寡、株式等の有価証券取引についての知識経験の有無・程度により異なるが、前記第二の一8(二)(3)認定のような生保協会の自主的運営ルールなども考慮に入れて検討すれば、原則的には、相手方が従来の定額保険についての知識程度しか有していないことを前提として、変額保険の基本的特徴である①保険金及び解約払戻金の金額は、特別勘定資産の運用の結果によって変動するものであること、②基本保険金を除いた保険金及び解約払戻金の金額には最低保証がなく、特別勘定資産の運用の結果によっては右保険金又は解約払戻金の金額が払込保険料の金額を下回り、いわゆる元本割れが生じる可能性があることを相手方が理解し得る程度に説明しなければならないというべきである。

そこで、本件についてこれをみると、前記一1及び2認定のとおり、変額保険の募集人である高橋は、本件各保険契約の勧誘の際、勝次に対して、変額保険の右特徴についての説明が記載された本件パンフレット、設計書及び契約のしおりを交付した上、これらの書面に基づき、右特徴について一応の説明をしているものであり、勝次の職業や年齢、原告の財産の管理についての経験などをも考慮に入れれば、勝次にとって、右各書面の記載内容及びそれに基づく説明から、基本保険金を除く保険金及び解約払戻金の金額が特別勘定資産の運用実績に連動しており、運用対象である株式等の相場の変動によって右保険金等に相当の変動が生じ、元本割れの可能性もあることを容易に理解し得たはずであるというべきであるから、この点について、高橋が必要な説明を欠いたものとはいえないことが明らかである。

(二) 保険金等に課される所得税等について

原告は、保険金及び解約払戻金の金額から払込保険料の金額を控除した金額について所得税等が課されるため、かえって変額保険に加入することにより税負担が増えることもあり得るから、変額保険の募集人には右所得税等についての説明義務があるとし、この点について説明をしなかった高橋には説明義務違反の違法がある旨主張する。

しかしながら、変額保険の実質的節税効果は、その性質上、特別勘定資産の運用実績、借入金の金利の変動状況、被相続人の資産及び負債の金額、保険契約者の死亡時期等の様々な要因により大きく変わるものであるから、変額保険への加入が税負担を増加させるものか、それとも減少させるものかについては、一概には判断することができないといわざるを得ない。さらに、右実質的節税効果を実際に算定するためには、被相続人及び推定相続人の資産及び負債の状況を詳細に調査し、右の各要因につき幾つかのケースを想定したシミュレーションを作成することが必要であるが、このようなことは、税務や法律等に関する正確な知識を有する税理士などの専門家でなければ実行が不可能なものと考えられる。

これらの点を考慮すれば、変額保険に加入することにより税負担が増えることもあり得ることを根拠として、保険会社の営業員として変額保険の勧誘に従事しているにすぎない募集人に対し、保険金及び解約払戻金に課される所得税等についての説明義務を負わせることは、募集人に過大な義務を負わせることになって妥当ではないというべきであり、むしろ、自己の財産についての相続税対策を講じようとする者の方こそ、必要があれば、税理士などの専門家に変額保険の正確な節税効果について相談すべきものというべきであろう。

したがって、この点についての高橋の説明には違法がないというべきであり、これと異なる原告の主張は採用することができない。

2  不実の告知について

(一) 不実の告知が不法行為法上も違法と評価されるか否かについて

前記第二の一8(二)(1)のとおり、募取法一六条一項一号では、保険契約者に対して不実のことを告げる行為が禁止されているが、同法は、保険業者に対する取締法規の性格を有するものであるから、その違反は、原則として同法に基づく行政処分及び刑事罰の対象となるにとどまり、直ちに不法行為法上も違法と評価されることにはならないことはいうまでもないところである。

しかしながら、同法が保険契約者の利益の保護をその目的の一つとしていること(同法一条参照)にかんがみれば、募集人が保険契約の重要な事項に関して不実のことを告げたため、契約者が錯誤に陥って保険契約を締結し、その結果として不測の損害を受けたという場合には、当該違反行為が不法行為法上も違法との評価を受けることはあり得るというべきであるから、この点について検討することとする。

(二) 運用実績についての不実の告知について

(1) 前認定のとおり、高橋は、勝次に対し、平成二年一一月中ころから翌一二月にかけて、当時の変額保険の特別勘定資産の運用実績について、一二ないし一三パーセントである旨を告げている。

しかし、甲一〇、一一によれば、被告の変額保険においては、平成二年九月末の時点で、公表される運用実績のうち直近の契約分である一年前の平成元年九月契約分の運用実績がマイナス9.9パーセントであり、右時点では昭和六三年一一月契約分以降の運用実績がすべてマイナスとなっていること、及び同じく平成二年一二月末の時点では、一年前の平成元年一二月契約分の運用実績がマイナス11.7パーセントであり、右時点では同年四月契約分以降の運用実績がすべてマイナスとなっていることが認められるから、平成二年一一月中ころから翌一二月にかけても、その一年前の契約分の運用実績はマイナスであったものと推認され、したがって、高橋の右説明は、その時点において公表される一年前ないしそれに準じる時期の契約分の運用実績を示すものであるとすれば、客観的事実に反するものということになる。

(2)  しかしながら、特別勘定資産の金額は、その性質上、株価のように絶えず上下に変動するものであり、したがって変額保険の運用実績も、それに伴い上下に変動するものであるから、変額保険の募集人のある時点における運用実績についての説明に客観的事実に反する点があったからといって、それが直ちに違法となるという性質のものではなく、右のような説明が違法となるか否かは、むしろ、将来における特別勘定資産の運用実績について相手方の的確な予測を妨げたか否かという観点から、換言すると、その時点における運用実績についての説明が、右運用実績に関するその他の説明とあいまって、将来における運用実績についての相手方の的確な予測を妨げるような断定的判断の提供に当たるか否かという観点から、これを判断するのが相当である。

そして、前認定の大蔵省通達や生保協会発行のテキストにおける禁止事項の内容、さらには、証券取引法五〇条一項一、二号の規定の趣旨等を参酌すると、募集人の右のような説明が特別勘定資産の将来の運用実績についての右の断定的な判断の提供に該当し、それによって将来の運用実績の予測についての相手方の的確な判断を誤らせたものと認められる場合には、その提供の態様、判断内容の合理性、相手方の職業、経歴や株式等の有価証券取引についての知識経験の有無・程度などの事情いかんによっては、右断定的判断の提供行為が違法との評価を受けることがあり得るというべきである。

(3) そこで、これを本件についてみると、前認定のとおり、高橋は、勝次に対し、平成二年一一月中ころから翌一二月にかけて、当時の変額保険の特別勘定資産の運用実績が一二ないし一三パーセントである旨客観的事実に反する点のある説明をしているほか、右特別勘定資産が九パーセントの運用実績を上げた場合を前提とする将来の解約払戻金及び死亡保険金等の金額を表示した将来価格表を交付して、右書面に基づく説明を行い、さらに、勝次から九パーセントの運用を提示する根拠を明らかにするようにとの要請を受けて、本件説明書を交付した上で、過去の運用実績について、最高で四五パーセントに達しており、平均でも一三パーセントに及んでいる旨及び被告が多くのテナントビルを所有していることから長期的には九パーセントを下回ることはない旨などを告げている。そして、本件説明書には、前認定のとおり、変額保険が銀行のMMCに相当するものであること、一般の保険より多くの利益を契約者に還元することを目的とするものであること、大蔵省当局が責任を取れる利回りとして九パーセントの運用結果を提示することを許可したこと、その当時が株価の底と考えられることから将来に向かってタイミングの良い高利回りが期待し得ることなどが記載されている。

右のような高橋の説明及び本件説明書の記載内容の理解の仕方いかんによっては、右説明を受けた者は変額保険の運用実績が九パーセントを上回ることが確実であり、一三パーセントの運用実績をも期待し得るものと考えなくもなく、したがって、高橋の採った勧誘方法が違法な断定的判断の提供に当たるようにみえなくもない。

しかしながら、次の理由から、右勧誘方法は違法な断定的判断の提供には当たらないというべきである。

ア 高橋は、勝次に対し、変額保険について、単に、右のような説明をし、また、本件説明書を交付したものではなく、前認定のとおり、それに先立ち、本件パンフレット、設計書及び契約のしおりを交付して、保険金及び解約払戻金の金額は特別勘定資産の運用の結果によって変動するものであること、基本保険金を除いた保険金及び解約払戻金の金額には最低保証がなく、特別勘定資産の運用の結果によっては右保険金又は解約払戻金の金額が払込保険料の金額を下回り、いわゆる元本割れの生じる可能性があることを、勝次が理解し得る程度に説明しており、右説明対象となった本件パンフレットや設計書には、運用実績が〇パーセントの場合があり得ることについても説明がされている。

イ また、本件説明書をみると、変額保険のメリットが過度に強調されている嫌いがないではなく、また、その文言も、部分的に取り上げると、適切を欠く部分もないではないが、右説明書を全体的に読めば、冒頭部分で変額保険がハイリターンを目的とした保険であることを説明した上、大蔵省当局が運用利回りについて九パーセントまでの提示しか許可していないこと、被告の変額保険について、過去の運用実績が最高四五パーセント、最低6.5パーセント、平均一三パーセントの利回りであること、将来の運用実績が現在より向上する見込みであることを説明したものにとどまるものである。

したがって、本件説明書の記載内容を本件パンフレット、設計書及び契約のしおりの記載内容と併せて読めば、右説明書が将来確実に九パーセントの運用実績が確保されるものであることを説明したものでないことは容易に理解することができるものというべきである。

ウ さらに、高橋が勝次に対し変額保険の運用実績がその当時一二ないし一三パーセントであり、また将来九パーセントを下回ることはない旨説明した点についても、右説明に先立ち高橋が勝次に交付し、それについて説明をした本件パンフレット、設計書及び契約のしおりの記載内容と無関係に右口頭での説明を独自に解釈するのは相当でないというべきである。右の資料が被告作成の正式の資料であることからすると、右資料に基づいて説明を受けた者は、その記載内容を重視するのが通常であるから、右記載内容と併せて理解すれば、高橋の右説明も、結局のところ、変額保険の将来の運用実績について、個人的な予測を示したものにすぎないことを容易に理解することができるものというべきである。

そして、甲一〇、一一、乙九によれば、被告の変額保険においては、その運用実績が、①平成二年六月末の時点では、昭和六一年一〇月契約分から平成元年六月契約分まで最高53.9パーセント、最低でも8.7パーセントであったこと、②平成二年九月末の時点でも、昭和六一年一〇月契約分から同六三年一〇月契約分まではすべてプラスで、最高34.6パーセントであったこと、③平成二年一二月末の時点でも、昭和六一年一〇月契約分から平成元年二月契約分まですべてプラスで、最高38.4パーセントであったこと、④平成二年六月末時点では、昭和六一年一〇月契約分から平成元年六月契約分までの平均で九パーセントであったことが認められる。また、日経平均株価は、昭和六三年一二月に三万円台に突入した後、平成元年一二月の大納会には三万八九一五円八七銭の史上最高値を記録しており(いわゆるバブル経済の最盛期)、その後、平成二年に入り、四月には二万八〇〇二円七銭と下落するなど、同年一一月ないし一二月ころは、株価が下落傾向にあったということができる(公知の事実)が、その当時は、日経平均株価が史上最高値を記録してから一年足らずで、いまだ一般にはバブル経済が破綻したとの認識は持たれていなかったものである(公知の事実)。

右の各事実によれば、高橋が、勝次に対し、平成二年一一月中ころから翌一二月にかけて、変額保険の運用実績がその当時一二ないし一三パーセントであり、また、将来の運用実績についての個人的な予測として九パーセントを下回ることはない旨説明したこと自体も、当時の状況からすると、あながち無理からぬものがあり、右のようか説明をしたことをとらえて、直ちに、高橋が変額保険の運用実績について確更に勝次の将来予測を誤らせようとしたということも困難であるといわざるを得ない。

エ 甲四の5ないし7、証人勝次、同高橋の各証言(第一、二回)によれば、現に、勝次は、その当時、高橋の前認定のような説明や本件説明書の評載内容にもかかわらず、変額保険の運用実績が九パーセントを下回ることがないなどと信じることなく、高橋に要求して、同人から、運用実績が八パーセントと七パーセントの場合の解約払戻金額を記載した書面(甲四の5ないし7)の交付を受けていることが認められる。

オ 以上の諸点に加えて、前記第二の一1(一)で認定した勝次の経歴や当時の職業及び原告の不動産についての答理の状況を総合して判断すると、高橋の勝次に対する前認定のような説明や本件説明書の交付の事実をとらえて、違法な断定的判断の提供があったものと認定することは困難であるというべきである。

したがって、高橋の運用実績についての不実の告知を理由とする原告の請求は理由がないことに帰する。

(三) 納税資金の確保及び相続財産の評価についての不実の告知について

原告は、高橋が、①運用成績が九パーセントの場合、解約払戻金が借入金元利合計額を下回るため、借入金の返済のためには解約払戻金のほかに別途資金が必要となるにもかかわらず、本件各保険契約を締結すれば、節税効果のほかにも、納税資金を確保することができる旨説明した、②三回目の保険料払込時期が到来する前に原告が死亡した場合には、払込保険料の全額について相続財産としての評価が約七割に圧縮されることはないにもかかわらず、常に払込保険料の全額について相続財産としての評価が約七割に圧縮される旨説明したとし、右説明はいずれも事実に反するものであるとして、高橋の右各説明には違法がある旨主張する。

しかしながら、まず、①の点についてみれば、前認定のとおり、高橋は、運用成績が相当に高くなれば解約払戻金が借入金の元利合計を上回る可能性があるので、その場合には納税資金の一部が賄える旨説明したものであって、原告の主張するような説明をした事実は証拠上認められない。また、②の点についてみても、そのような説明の誤りと相当因果関係を有する損害の範囲は、二年目及び三年目の保険料を一括して支払ったことによる損害、すなわち右各保険料の実際の支払時からその本来の払込時期までの期間において、右各保険料に充てられた借入金から発生する利息の合計額から前納割引額を控除した金額にとどまるものであり、右説明の誤りは原告主張の損害とは相当因果関係を有しないものというべきであるから、結局、①及び②についての高橋の説明の違法を理由とする原告の請求も理由がないことに帰する。

第四  結論

よって、原告の請求は理由がないから棄却することとし、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官横山匡輝 裁判官市原義孝 裁判官楠井敏郎は、差し支えのため、署名押印することができない。裁判長裁判官横山匡輝)

別紙<省略>

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